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瑕のない空

情報技術の勉強したり、読書したり、駄文を綴ったりする予定 だいたい虚構

随筆 個人の力とチームの力 新大学生への提言を含む

 学生生活を振り返る時、後悔の二文字が浮かぶことは少しもない。
 ただ事前に幾つかの考えを諭されていればもう少し気楽に生きることが出来たととも考えている。

 その中に協調性というものに対する一つの小さな誤解があった。
 それは個人で戦う力と組織で戦う力、換言して
個人の能力とチームワークが相反関係にあるという漠然とした感覚だった。
 個人として突出すればするほど他者との交流が困難となる。そうした考えを抱くとき、私の頭には天才達が辿った何処と無く影を纏った人生が浮かぶのである。
 自己を省みても、元来思考が癖である私にとっては協調性が律速となる事が多かった。それ故に自らの武器を思考力と結論を推進する実行力に設定する事になる。
 同時に世間が理系院生という存在にそうした能力を期待しているというステレオタイプを抱いていた。

 そんな誤解が消えたのは就職活動中、とある企業の面接を受けた時の事だった。

 「少し意地悪な質問なんだけど」
 エントリーシートに書かれた内容について長い対話を終えた後、その言葉を枕詞に面接官はこう尋ねた。
 「君は一人で考え抜く力とチームで戦う力、どちらが重要だと思う?」
 両方重要に決まっている。即座に浮かんだ言葉を留め、私は相手の眼を伺った。
 彼は経験を積んできた人間だ。そんな事は分かった上で尋ねてきている。だから「意地悪な質問」なのだ。両者ともに企業が当然に求める能力である。だからこそ私もエントリーシートの中でPDCAの実行力や思考能力といった個人の力を学生の水準内で謙虚に明しつつ、協調性の実績を示すためにチームメンバーとの関わりも記載した。
 面接中の対話も当然その二点に根差した物である。
 「難しい質問ですね」
 「だと思う」
 微笑を浮かべながら私は考える。どちらが重要などと実際考えた事もない。両者は重要だが相反する関係にある。だが深く考える余裕はなかった。私は一拍置いて答えを告げる。
 「チームで戦う力です」
 打算が無かったと言えば嘘になる。
 というより、完全な打算であった。
 私は組織の面接を受けている訳でここで個人などと口走ろう物なら即座に面接官の心中に青筋を走らせる事になるのは明白である。
 「どうして?」
 当然口先だけでどうにかなる訳もなく、発言には即座に根拠が求められた。
 「確かに一人で考え抜く力は重要です。ですが規模の大きい事を成す為には一人の力では限界があります」
 咄嗟に私は動機の一つとして語っていた「規模の大きさ」を理由に論理を組み立てた。通俗的な比喩として私の頭にはピラミッドの姿が浮かんでいた。
 「ですからチームの力は絶対に必要です」
 私は現実に舞い戻り、面接官の眼を向いて力強く断言した。
 その時には既に唐突に捻り出した回答を一切の疑い無く確信するまでに至っている。視界の靄が晴れたような心地よさがあった。

 今、静かにその出来事を振り返る時、私の頭には人類史と言うものが朧気な形を持って浮かび上がってくる。
 文明発展の歴史は組織の歴史でもある。
 農耕と帝国が専門家を養う事を可能としたし、二回に及ぶ世界大戦は単に物質的国力の多寡に留まらず、その効率的配分・集中という点で疑いようもなく組織化能力の優劣を競う総力戦であった。
 自由の偉大さを知りつつも我々がそうした世界史上の展開の果てに存在している事は明白である。
 それ故に成果を目的とする場合、組織・集団全体の能力を考えねばならず、個人の力という物はあくまで組織・集団全体の戦力を決定する要素として考えねばならない。
 勿論それは個の力を磨かずとも良いという事ではない。
 オーケストラの名演が楽団員個人や指揮者、作曲家の能力成果の集積であるように個の力が求められるのは自明である。組織力を決定する要素として個の力が捉えられるのである。
 まさに全体は部分の総和に優るというアリストテレスの名言が示す世界である。
 一部に完全な孤独を保ち人類史に偉大な成果を刻んだ者たちもいる。しかし彼らを醸成した社会環境や前提知識なども人類の組織化能力の結果である。

 いずれにせよこうした世界の流れに眼を背けず、それなりに楽をしてリスクの少ない人生を歩みたいと願うのならば個人の力と同時に組織に対する親和性を獲得・向上させる必要がある。

 その為に学生時代に積むべき経験として以下の二つの挙げておきたい。
 ①知識思考判断実行力といった個人的な能力の向上
 ②チームワーク力の向上

 より具体的、実践的な方法はここでは割愛する(文章量の問題と自分で見つける事が重要である為)。
 ①に関しては勉強や読書の他に何か一つの具体的目標を定めそれに向けて実行してみるとよいだろう。
 ②に関しては何か一つの目標を共有する集団に所属しそこに向かって活動してみると良いだろう。勿論自分が目標設定してみても良い。

 ①②共に目標自体は社会的倫理に反さなければ何でも良い。活動を始めた理由は「当時、兎に角何かをしてみたかったから」で良い。(何でも良いと言ったが客観的視点で考えること、例えば政治的活動が危険なのは判るだろう)
 自己の適正や興味を把握する中で徐々に希望就職先に合わせていければ十分だ。

 有名な大学ならばこれらを実行する為のカリキュラムやその他の環境はそれなりにある為頑張ろう。

最後に

 誰にも頼らずしかし他者からそれなりに羨まれる生活をする。そんな物は大多数にとっては幻想に過ぎない。不可能ではない。しかしそれは無数の敗北者の屍の上に少数が狂気を踊る鮮血の世界である。
純朴な羊を騙す狼には気をつけろ。
 奴等は過激と特殊を欺いて君らの人生を滅茶苦茶にしかねない。